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札幌高等裁判所函館支部 昭和24年(を)110号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(理由)

辯護人岡田直覺の控訴趣意第一點は、原審判決は不法に公訴を受理し且審判の請求を受けない事件について判決をしたもので破棄すべきものである。

本件訴訟記録につき昭和二四年三月九日附檢察官檢事西村金十郞名義の起訴状の公訴事實第二には「被告人藤田晴雄は地釜募と共謀の上昭和二三年五月頃より同年九月までの間數囘に亘り前示地釜募が業務上保管せる前示資金過超金の中より前記藤田晴雄の生活費並病氣治療費等に借受けて橫領し」と記載があり被告人藤田晴雄の犯罪日時としては漠然とながら一應記載があるが犯罪の場所の記載もなく又橫領金額の記載もない。換言すれば被告人の犯罪を特定し得る程度に訴因を記載していない。斯樣な事實の記載を以てしては被告人に對する起訴状として適法な起訴状とは斷じて言えない。若し斯樣な記載を以て訴因の適法な記載だとするならば僅少な嫌疑さえあれば具體的の事實がなくともいくらでも起訴されることになり人權の擁護確立は到底望まれない結果に陷る。然るに原審裁判所は斯る不法な公訴を受理して審判したものである。若し夫れ原審公判調書の記載の如く檢事は裁判長が釋明を求めたのに對し「擅に合計二萬三千圓餘を……橫領し」と述べている外昭和二四年五月一三日附檢察官檢事西村金十郞名義の訴因及罰條の訂正追加變更請求書の如く「起訴状の公訴事實を次の通り變更する、公訴事實中第二を「第二藤田晴雄は地釜募と共謀の上、イ、昭和二三年四月中旬頃函館郵便局において地釜募が業務上保管せる前示資金過超金等の中より金二萬圓を前示被告人藤田晴雄の生活費等に借り受けて橫領し、ロ、前同年一〇月初旬頃函館郵便局において……金三千圓……橫領し」とあるがこれを捉えて起訴状が適法であるというならば本來無效のものが追完によつて有效となる理屈である。法に所謂變更を許すのは元來有效な訴因を基底としてこれを事實の同一性を害しない限度に於て變更を認める趣旨であつて起訴状として無效なものを公判に至つて救濟せんとしても許すべからざるものである。從つて原審裁判所は不法に公訴を受理して審判したものである。

百歩を讓つて假りに右公訴が適法なものとしても原審はその判決に於て理由第七に「被告人地釜募、同藤田晴雄は共謀の上(一)同月末頃(註 前掲事實を對比すれば昭和二三年八月末頃と認定出來る)前記函館郵便局において、被告人地釜募が同局出納官吏代務者として業務上保管せる資金過超金の中から四萬圓を被告人藤田晴雄の家族の療養費に供するため擅に被告人藤田晴雄に貸渡して橫領し(二)同年一〇月上旬同局内に於て……千圓……橫領し」とあつて起訴事實(訴因變更事實)の昭和二三年一〇月初旬頃三千圓を橫領した事實は異論ないが起訴事實(前同樣)の昭和二三年四月中旬頃金二萬圓を橫領した事實に對して何等判決をせず起訴を受けないのに昭和二三年八月末頃金四萬圓を橫領したと判決しているのである。

右は刑事訴訟法第三七八條の理由あるもので原審判決は破棄されなければならない。というのである。

(イ)起訴状の記載に缺點があつても、その缺點が後にこれを補充訂正することによつて追完し得る程度のものであれば、その缺點は起訴状の效力に影響を及ぼさない。被告人藤田晴雄に對する昭和二四年三月九日附起訴状中第二の公訴事實には所論のように犯罪の場所及び橫領に係る金額の記載がないので、公訴事實の記載方としてはまことに不完全であるけれども、犯罪の場所は不可缺の記載事項ではなく、又その日時、方法、目的等が一應犯罪を特定し得る程度に記載せられており、その缺點も後に追完し得ない程度のものではなく、且つ原審第一囘公判調書の記載によると、同公判期日に檢事が右橫領金額は二萬三千圓餘である旨釋明して之を補充しているから結局右起訴状は不適法ではない。

(ロ)次に原審第六囘公判調書によると、同公判期日において檢事が所論のような訴因を變更したことが認められるが、その變更は前記訂正に係る起訴状に、昭和二三年五月頃より同年九月までの間數囘に亘り二萬三千圓餘を橫領したとあるのを、(イ)同年四月中旬頃二萬圓を、(ロ)同年一〇月初旬頃三千圓を各橫領した旨變更し、且つ犯罪の場所を函館郵便局においてと補充したに過ぎないものであり、右變更によつて公訴事實の同一性を害していないことが明らかであるから、原審裁判所が不法に公訴を受理したことにはならない。

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